十日町から日本を元気にしたい!と、飲食店とゲストハウスをつくった4人の移住者に聞く地方での仕事のつくり方

 

新潟県十日町市は、東京から新幹線と在来線を乗り継いで約2時間。

意外と東京に近いが、日本有数の豪雪地でもあり多い時で3メートル以上の雪が積もる。

その雪が豊かな水となり、「魚沼産コシヒカリ」を中心とする農業や「明石縮(ちぢみ)」に代表される繊維業をはぐくんできた。

最近では、世界最大級の国際芸術祭「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」も有名で、世界中から観光客が訪れる地域だ。

そんな十日町の中心市街地に、十日町から日本を元気にしたい!と立ち上がった4人の移住者がいる。

株式会社YELL(以下、YELL)の高木千歩さん・小泉嘉章さん・小泉美智代さん・岩井佳子さんだ。

左から、岩井佳子さん、高木千歩さん、協力者の大津貴夫さん、小泉嘉章さん、小泉美智代さん
左から、岩井佳子さん、高木千歩さん、協力者の大津貴夫さん、小泉嘉章さん、小泉美智代さん

4人とも実は、十日町ではなく東京の出身。まず高木千歩さんが、2011年に地域おこし協力隊として十日町に移住。2年半の活動期間を経て、十日町で起業することを決意した。高木さんの妹夫婦である小泉嘉章さんと小泉美智代さん、小泉嘉章さんと仕事で関わりがあった岩井佳子さんとで、2014年2月にYELLを立ち上げた。

高木さんに続き、小泉さん夫婦が十日町に移住。岩井さんは現在、東京と十日町の二拠点生活をしている。

 

十日町で愛される、店と宿をつくる

まず着手したのは、飲食業。2014年4月に「ALE beer&pizza」というクラフトビールとシカゴスタイルピザのお店を開店した。飲食店の経営以外にもやりたいことはたくさんあったが、開店以降約半年は店を軌道にのせることに必死だったという。

「食材は全て国産にこだわっていて1ミリも手を抜かない分、想像以上に店をまわすのが大変でした。考えていた理論と現実が合わないことがあると、時には伝票をひっくり返して検証作業をすることもありました」と、当時の苦労を振り返る。

十日町駅から徒歩10分の場所にある「ALE beer&pizza」
十日町駅から徒歩10分の場所にある「ALE beer&pizza」

 

落ち着いた雰囲気の店内
落ち着いた雰囲気の店内

 

店が一段落ついたころ、次の事業として動き始めたのがゲストハウス「ハチャネ」。(『はちゃね』は十日町弁で『またね』の意。)「ALE」の2階をリフォームし、2016年4月1日にオープンした。とはいえ、その選択にいたるまでにも山あり谷あり。

「本当にやりたいことがたくさんあって、とにかくビジネスプランを死ぬほど作ってシミュレーションしまくりました。その中で宿泊業に絞ったのは、空いていた『ALE』の2階を活用したかったことと、宿泊業であればお店の資源を活用できて新たな投資も少なくてすむことが大きかったですね。」

宿泊業に狙いを定め綿密なリサーチをすると、着物といった繊維業で発展してきた歴史からか十日町のホテルにはビジネス向けのシングルが多く、ツインの部屋数が少ないことがわかった。しかも価格帯は7~8000円と割高。しかし近頃は「大地の芸術祭」などの観光客も増えていることから、必ず安価な宿泊施設の需要があると感じたそうだ。

 

北欧を感じる居心地のいい「ハチャネ」の部屋
北欧を感じる居心地のいい「ハチャネ」の部屋

 

地元の人に助けられながら、夢に向かう

話しを聞いていると、とにかく4人のチームワークがよいことがうかがえる。

重要なことについては4人でとことん議論して決めた上で、「4人で4人ができることをそれぞれやる」と本人たちが言うとおり、それぞれの得意分野を活かした役割を自然と分担している印象だ。

高木さんは協力隊時代のネットワークをいかし、「ALE」の運営を一手に引き受け、小泉嘉章さんは新事業の企画やリサーチがメイン。事務の経験がある小泉美智代さんは、現在経理や労務を担当し、他にも店や宿のデザイン、店の料理のレシピも手がけたという。工務店との打合せのためになんとCADまで勉強し始め、メンバーからは「YELLのコンピューター」と呼ばれている。岩井さんはHPやFacebookなどでの広報を担当している。「ハチャネ」の資金調達のために挑戦したクラウドファンディングも、岩井さんの担当だ。

このように、なんでもできてしまう経験豊富な4人だが、十日町の人たちに助けられることもあるという。

「『ハチャネ』は最初、旅館業法でいう簡易宿泊所でやろうと思っていたんですが、基準のハードルが高すぎて実は一度諦めたんです。でも、知り合いの大工さんから『もっと基準が低い農家民宿でならやれるんじゃないか』と教えてもらって、また動き出すことができました。」

そこで高木さんの知り合いで若手農家の大津貴夫さんに協力をお願いし、「ハチャネ」は農家民宿として運営することになった。シングルが1部屋とツインの部屋が3部屋、最大で7人が泊まれ、価格は3000円代と十日町での最安値を目指した。

 

十日町を好きになってもらうための宿

「『ハチャネ』ができることで、十日町を好きになってもらう入り口を作れたらいい」と、4人は語る。

十日町に移住した、または二拠点居住中の自分たちのように、何度も十日町に来て人と出会い交流することで、十日町を特別な場所にしてもらえたら、そしてその中から次の移住者が現れたら、と願いをこめて。

「移住を考えている人の中には、既に家族がいたり都会で働いている人もいると思います。自分たちが『ALE』や『ハチャネ』を通じて十日町のありのままの情報を発信することで、少しでも移住への不安を解消できたらいい。自分たちが経営で苦労してきたことを活かして、十日町で起業したい人の支援も今後できたらいいと思います。」

十日町から日本を元気にするために、挑戦の歩みを止めない株式会社YELL。4人の情熱で、十日町がますます楽しい町になることは間違いないだろう。

4人の想いと夢が詰まった店と宿から、十日町の旅を楽しんでみてはいかがだろうか。

 

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☆株式会社YELL

HP http://yell-japan.com/

FB https://www.facebook.com/TokamachiYELL/

 

※この記事は、2015年12月14日の記事に加筆・訂正をしたものです。

(取材:福島)