地域おこし協力隊の先進地!十日町市の担当者に聞く高い定住率のワケ

「十日町市といえば?」と問われたら、どんな答えが出るだろうか。

雪、着物、魚沼産コシヒカリ、へぎそば、大地の芸術祭…。多くの魅力があるが、最近新たな魅力がまた一つ加わることとなった。

それは、「地域おこし協力隊」。

十日町市は地域おこし協力隊制度を効果的に活用している事例として、平成27年度ふるさとづくり大賞・地方自治体表彰(総務大臣賞)を受賞した。

市役所玄関に飾られるふるさとづくり大賞の表彰状と盾
市役所玄関に飾られるふるさとづくり大賞の表彰状と盾

そもそも地域おこし協力隊とは、総務省が2009年から開始した制度だ。都市部の住民を積極的に地方に誘致し、彼らの力をかりて過疎・高齢化に喘ぐ地域を再生・活性化していくという制度。

全国的にも隊員と受入自治体は年々増え、2014年度には444の自治体で1,511名の隊員が受入をされた(総務省発表)。このように十日町市だけでなく全国の自治体で導入されている制度だが、なぜ十日町市の地域おこし協力隊が注目されているのか。

協力隊担当である、十日町市役所総務部企画政策課移住定住推進係の小林秀幸さんに話を伺ってきた。

なぜ十日町は地域おこし協力隊の先進地になれたのか?

十日町市は制度が始まった2009年度から全国に先駆けて導入、5名の隊員を受け入れた。初めての制度には慎重になって仕方ないものだが、なぜ思い切った対応ができたのか。

「元々十日町市は豪雪地のため出稼ぎの習慣があり、人が都市部に出ていきやすい地域でした。いわば、『過疎の先進地』です。市としてもさまざまな対策を講じてきましたが、平等性・公平性を行動原理とする行政の支援では、地域によって違う課題に一つの施策では対応しきれなかったり、そもそも過疎が進みすぎて補助金を活用できない集落もあったりと、従来の支援では限界がありました。

地域おこし協力隊制度では、地域に“お金”ではなく“人”をいれることができます。人をいれることで、地域の実態に即した対策ができ、地域に不足するマンパワーを補完し、外部視線によって多くの魅力を再発見することにつながる。まさしく求めていた制度でした。

また、『大地の芸術祭』などで住民と外部の人との交流がすでにあり、外部の人たちと協働する素地が地域あったことも、早期導入を決めた要因のひとつであったと思います。」

住民と談笑する地域おこし協力隊員
住民と談笑する地域おこし協力隊員

 とことん地域にこだわることで、生まれるもの

十日町市の取組みで大きく評価された点は、地域住民と交流・協働しながら活動する「地域密着型」の配置方法。

協力隊制度を活用する自治体の中には、観光振興や商品開発といった「テーマ型」で隊員を配置するところもあるが、十日町市ではあえて「地域密着型」を導入当初から継続している。

「テーマ型の場合、隊員の仕事ははっきりと決まっていますが、地域密着型はどんな仕事をするか分かりづらく、募集をかけても隊員が集まらないリスクがあります。担当となった当初、テーマ型への転換を検討しましたが、関口十日町市長から『協力隊は住民と一緒に汗を流す人材であり、机にかじりついている人間ではない』と一喝され、テーマ型の配置には至りませんでした。そのときには、関口市長の思い・考えをすぐ理解できませんでしたが、3年協力隊と歩んできて、やっと、関口市長がこだわった協力隊のあり方を理解できるようになりました。

たとえば道の駅に隊員を配置した場合、住民との付き合いは道の駅の中だけに限られてしまうのではないかと考えています。住民との付き合いがあっても、それはバイヤーや販売者としての付き合いになってしまう。そんな限られた人間関係の中で、協力隊の任期終了後は引き続き雇用されないとなったら、隊員は定住してくれるでしょうか?

地域が求めるニーズに応えながら、地域住民はもちろん地域外の人とも3年間関わっていく中で、定住を支援してくれる味方が増えていきます。狭いオリの中に閉じ込めないことも、現在の定住率の高さにつながっているのではないかと思います。

また地域の側も、協力隊を受け入れ、協働することにより刺激を受け、気づきを得て変わり始めています。協力隊にただただ助けを求めるという状態から、住民が主体となって地域の中で協力隊をうまく活用するためにどうしたらいいかとシステムづくりを模索し始めてきています。」

地域の人と向き合い、信頼関係を築いていく
地域の人と向き合い、信頼関係を築いていく

地域おこし協力隊を支える市役所の親心

地域住民とのつながりを足掛かりに起業、就農または市内の企業に就職する協力隊卒業生も多い。地域密着型の配置で住民とのつながりを重視したからこその結果だろう。

しかし、住民との関係が濃密だからこそ、時には地域と衝突する場合もある。そんな時は、市役所が隊員の「駆け込み寺」になればいい、と小林さんは話す。

「市役所は、隊員にとってある意味“都合のいい存在”であればいいと思っています。地域の人に相談できないことのはけ口になる、息抜きに話をしにくるだけでもいい。地域の人は距離が近い分、隊員のいいところも悪いところも見えてしまうもの。隊員が一生懸命やっているところを褒めるのは、活動状況を把握している行政の役割のひとつと思っています。協力隊、地域、市役所がそれぞれ担うべき役割をしっかりと全うし、機能しているからこそ、十日町市の取組がうまくいっているのではないでしょうか。」

地域おこし協力隊・地域の住民・市役所の三者の連携が大事
地域おこし協力隊・地域の住民・市役所の三者の連携が大事

隊員は自分にとって同志であり、時には親心を持って接している、と小林さんの目は優しい。

十日町市の協力隊員の定着率が高い理由は、こういった受入層の厚さにあるのかもしれない。地域住民や市役所、さらには協力隊OBOG・市内の移住者など隊員をサポートする人材は揃っている。

最後に、隊員に期待することを尋ねてみた。

「もちろん協力隊卒業後に定住してもらうのが理想ですが、絶対ではありません。定住しなくても、十日町市のファンであってくれれば十分。他の場所に行ったとしても、十日町市とつながりを持ち貢献してくれたらありがたいですね。

あと、協力隊卒業生の中には飲食店や民宿を起業した人もいますが、地域住民と手を携えた形での起業をする人が現れたら嬉しいです。例えば、農業生産法人を地域の人と立ち上げて、農業をしたり研修生を受け入れたり。例え、協力隊が地域を離れても、地域に形が残るようなモデル事例ができるといいですね。」

地域に形が残るモデルづくり。それはきっと、協力隊と住民が協力して地域を磨いた結果、到達することのできる、集落が思い描く将来像の完成形といえるのではないだろうか。

小林さんいわく、その芽はすでに育まれているとのこと。

モデル事例ができると他地域も刺激され、地域づくりの好循環が生まれていく。十日町市はその軌道に乗り始めたばかり。この先、協力隊と協働する地域づくりがどう進んでいくか、ますます十日町市への注目は高まっていきそうだ。

 

※この記事の情報は、2016年2月16日時点のものです。

(取材:福島)